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  • 執筆者の写真Aiko Sada

新しい論文投稿・査読の形 "Review Commons"

研究を開始してから研究成果が世に出るまで、どれくらいの期間がかかっていますか?


私の研究では、成体マウスを使うvivoの実験が多いので、1つの実験に1年、2年といった長い年月がかかることも(老化研究は特に)。1つのプロジェクトを形にするには3~7年といった感覚だろうか。研究成果がまとまり、論文を投稿してからアクセプトされ世の中に出るまでも、長い。同じ分野で大きなインパクトのある仕事は5~10年、そのうち査読に2年などといった話もよく耳にする。査読に時間がかかっているうちに、他の研究グループに似た内容で先に論文を出されてしまい、新規性が失われる場合も。


限られた期間の中で研究を行う学生、ポスドク、任期付きの若手教員・研究員にとって、論文投稿にかかる時間はとてつもなく長い。特に、査読に進み、リバイスし、最後の最後でリジェクトとなったときに、また一から他の雑誌へ投稿し直して・・・というプロセスは、どうにかならないものかと常々思ってきた。雑誌によっては、同じ系列の他の雑誌へとトランスファーする仕組みもあるが、「トランスファーしたが、結局、前の雑誌と同じことを査読で聞かれ、一から再投稿するのとあまり変わらない」などの声も。


近年のライフサイエンス研究では、技術的にできることが増えたこともあり、求められるデータの量は格段に増えている。時間をかければ「できる実験」。しかし投稿後に新たにマウス交配・解析し、1年以上かけてデータを取るのか。そのデータがないと、論文の結論が支持されないのか。疑問が残ることも多い。もちろん査読によって自分の論文は改善され、研究成果について客観的に見つめ直す機会にもなるので、エディターとレビューアーには非常に感謝しているし、自分も査読者として研究の発展に貢献したいと思う。ただ、きちんとリバイスすべき内容が吟味されているのか?過剰または理不尽な要求になっている場合もないだろうか?


最近は、bioRxivをはじめとするプレプリントサーバーにより、より早く研究成果を公開し、共有する仕組みが広がっている。しかしbioRxivへ投稿される論文の数は膨大になり、質の担保は難しいように感じる。一方、同じ分野の専門家によるpeer reviewは、論文の質や信頼性を保証する上で極めて重要であるが、査読プロセスにかかる時間やコスト、内容の合理性、不透明性に対して、疑問の声も増えているように思う。


そんな中、従来の論文投稿・査読の形とは異なる”Review Commons”というプラットフォーム(https://www.reviewcommons.org)が開始されたというニュースを耳にした。


従来の論文投稿だと、雑誌へ投稿 -> 査読 -> アクセプト、リバイス or リジェクト -> リジェクトとなれば他の雑誌へ投稿する。一方、Review Commonsでは、Review Commonsへ投稿 -> 査読 -> 1ヶ月以内にリバイスプランを提示 -> Review Commons内で雑誌を選んで投稿 -> アクセプト、リバイス or リジェクト -> リジェクトとなればReview Commons内で雑誌を選んで投稿(基本は3回まで)という流れとなる。つまり、特定の雑誌に投稿する前に、専門家による査読があるJournal-independent peer reviewというわけだ。また一つの雑誌でリジェクトとなった場合も、査読へ再度回ることなく、あくまでもReview Commonsで最初にもらった査読コメントに対してリバイスをする。


Review Commonsで選べる雑誌は、発生生物学、幹細胞生物学者にはたまらないラインナップ。EMBO、Development、eLife、JCB、PLOS・・・と、雑誌のロゴを見ているだけで、ワクワクしてくるのは私だけでしょうか。


ということで、他でリジェクトになった論文を、Review Commons経由で論文投稿してみた。タイムラインとしては、こんな感じ。


2020年6月24日 雑誌A投稿、同時にbiorxivへ投稿

2020年6月30日 雑誌Aリジェクト

2020年7月10日 Review Commons投稿

2020年7月17日 Review Commons査読へ回る

2020年8月5日 Review Commons査読コメント返却

2020年8月31日 Review Commonsリバイスプラン提出、雑誌B投稿

2020年10月5日 雑誌Bリジェクト

2020年10月6日 雑誌C投稿

2020年10月8日 雑誌C、decision返却(リバイス)

2020年11月1日 雑誌C、Review Commons査読コメントと雑誌Cのエディターのコメントに対して、リバイスを投稿

2020年11月4日 雑誌C、アクセプト!


よかった点

・何よりプロセスの早さ。Review Commonsへの投稿からアクセプトまで4ヶ月だったが、やはり普通の投稿より早い。雑誌Aでリジェクトになったときに、同じ系列の雑誌にトランスファーも勧められていたのだけど、どっちが早かったかと思うと、やはりReview Commonsだったんじゃなかったかな。今回は、他のグループとの競合もあったので、結果的には良い判断であったと思う。

・Review Commons内で3回までは雑誌を変えられるので、少し高めの雑誌にもトライでき、リジェクトされたときのリカバーも比較的容易。バックアップがあることの安心感がある。

・査読コメントは、Review Commons経由で最初にもらっているので、リバイス実験をやりながら雑誌からの返答を待てる。

・査読コメントがフェア。最初に投稿した内容に対して、大幅な修正は求められなかった。リバイスで聞かれるだろうと思っていたことが要求されなかったりして、自分の普段の感覚とはズレる(あとでエディターに聞かれたが)。

・疑問があってReview Commonsにメールしたときに、すぐ対応してくれた。


微妙だった点や気付いた点

・レビューアーが査読しているときには、まだ投稿雑誌が分からないので、コメントしづらそうにも感じた。内容的はいいけど、この雑誌に載せるほどではないとか、普段の査読プロセスは、少なからず雑誌依存的な判断になっていると思うので。

・Review Commonsのオンラインプラットフォームで投稿した後、雑誌固有のオンラインシステムに同じような情報を入れる必要がある雑誌もあった。Review Commonsの内容でそのままトランスファーされた雑誌もあった。

・Review Commonsの雑誌は、いわゆる”インパクトファクター”でいうと振れ幅は大きくない気はするので、リジェクトになったときに、雑誌を落としていくというよりは、自分の仕事との相性がいい雑誌を選ぶという感じ。

・雑誌へ投稿後のプロセスの時間、対応、投稿のシステムなどは、雑誌やエディターに依存的。

・Review Commonsで最初にもらった査読コメント後に、新たな査読者がついたり、新たな要求をされることはなかった。エディターからはコメントが来たので、追加実験した。


ということで、慣れないシステムだったので、戸惑いはあったけど、総合的には満足だった。現在の論文の投稿・査読のシステムに対して考え、議論を深めるきっかけにもなるのではないかと。


佐田

(本ブログ記事は、私個人の意見であり、所属組織や研究者全員の見解を示すものではありません。)

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