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執筆者の写真Aiko Sada

オープンラボって知っていますか?

さてさて、熊大に移ってから半年が経とうとしています。事務的な手続き、ラボのセットアップ、ラボメンバーのリクルート、研究費の申請・・・と慌ただしい日々でしたが、ようやく落ち着いてきました。着任した当初は、実はラボにベンチと流しがなく、空っぽの部屋だったのですが、必要な物も揃い、ラボっぽくなりました。


熊大IRCMSでは、オープンラボシステムを取り入れています。オープンラボというのは、いわゆるラボやオフィスの「壁」がなく、複数の研究室が一つの建物に同居しているような状態です。研究所の建物内に、一つの部屋を2-4研究室で分けて使用する各ラボのスペースと、共通機器室や洗浄室などの共通スペースが入り組んでいる、というイメージですね。居室も、私の部屋には3-4研究室入っています。ちなみに、若手PIのオフィスは大部屋ですが、中堅~シニアPIは個室です。個室でないと困ることもけっこうあるので、オープンラボであっても必要な個人のスペースは確保されています。写真は、IRCMSのラウンジスペースで、研究者同士が交流できるような場も設けられています。


オープンラボは、ただ壁がないだけで、何が違うの?と思っていましたが、物理的な壁をなくしただけでは何も変わらなくて、IRCMSはそれにプラスして皆が交われる仕組みを試行錯誤しながら作っているので、良い形になっているのだと思います。例えば、PIが集まってchalk talkで研究構想をディスカッションするブレインストーミング、熊大のIROASTや韓国のKAISTなど他の研究所との合同シンポジウム、PIミーティング、研究所全体でのセミナー、学生やポスドクのプレゼンテーション、ハッピーアワーやイベントなど、共同研究やディスカッションを活性化するとともに、研究所の運営についてもみんなで考えていきましょう、という形になっています。


IRCMSは国際化も進めており、外国人比率が50%以上となることを目標にしています。実際、学生、ポスドクの多くが海外から来ており、日本語が話せなくとも問題なく研究ができる環境が整っています。事務の方も英語に堪能で、メールも日英併記なので非常に助かりますね。


バイオ系の研究室で必ず使うチップやPBS、キムワイプなども、共通で準備して、そこから取るような形になっているのも、便利です。ラボごとの基本セットとして、遠心機、フリーザー、冷蔵ショーケース、培養用クリーンベンチやインキュベーター等も、IRCMSで準備してくれたものを借りて使用できるようになっていて、とてもありがたいです。


今まで私は、オープンラボを経験したことがなかったので、どんな感じなのかな?共同生活が少々苦手なので大丈夫かな?と思っていましたが、普通のラボにはないメリットに色々と気づいたので、共有したいと思います。


(1)機器の共有化が進む

大型機器はもちろん、シェーカー1つでも、若手PIにとっては大きな買い物。特にラボ立ち上げ時に必要なスタートアップ費用は膨大ですが、日本のアカデミアの苦しい状況の中、新しい研究室を一からセットアップするのは大変です。独立したい若手研究者は多いけれど、例えばアメリカなどと比べると予算の規模が違うので、研究のアクティビティを落とさずに日本で若手PIが完全に独立してラボを運営するのって現状難しいと感じます(特にバイオ系では)。


オープンラボだと、気軽に隣の研究室に自由に出入りできるので、機器や試薬等を全て自分で買い揃えなくていいというのは大きなメリットです。新しいPIにとっては特に、例えば普通の大学のラボシステムの中、隣の研究室に何かを借りたり、聞いたりするのは、かなり勇気がいりますが、オープンラボだとそのハードルがぐんと下がります。


(2)研究の幅が広がる

ライフサイエンス研究を行う上で必要な知識と技術は爆発的に増えていて、自分のラボ単独で全てをカバーするのは難しい時代と感じます。興味があるけど、自分で立ち上げるのは躊躇するような実験系が、隣のラボでワークしているということはよくあり、専門性の違う研究者同士が、相互に知識を技術を共有しながら研究を進められる体制は魅力的ですね。また、熊大は、伝統的にライフサイエンス系の研究が強く、お隣に発生研があったり、発生生物学、幹細胞研究をする私にとって、非常に恵まれた環境にあります。


(3)孤立しない

独立したばかりの若手PI。一人で行き詰ったらどうしようと、不安なのは私だけでしょうか・・・。ちょっと誰かとディスカッションすることで、研究の突破口が見つかったり、新しいアイディアが生まれたりすることは、研究を進める上で非常に大事だと思います。あと、事務的なことで分からないことを、ちょっと誰かに聞きたいときとか。デイリーベースのディスカッション相手に困らないというのは、オープンラボの大きなメリットですね。


オープンラボの話と少しずれますが、熊大には今ライフサイエンス系でアクティビティの高い若手研究者が多く集まっています。日本の大学は「部局の壁が厚い」などと言われたりして、実際「そうだなぁ・・・」と感じる部分も大きいですが、少なくとも若手PI同士は違う組織間でも仲が良く、最近では「くまだい若手研究者たちの非公式Twitter(@NextGenPIs)」https://twitter.com/NextGenPIs やSlackなどを共同運用しています。熊大医学部、病院、医学系研究所は、本荘キャンパスにありますが、黒髪にあるメインキャンパスにも仲間を増やし中です。


(4)ラボ内の様子が可視化される

研究室内でのトラブル、ハラスメント、研究アクティビティの低下など、研究室が閉じた空間にある場合、なかなか外に可視化されにくいといった問題があります。オープンラボだと、各ラボが何をやっているか、良くも悪くも外に丸わかりなので、トラブルの発見や解決につながりやすいと思います。


もちろんオープラボのデメリット(集団生活が苦手、ラボ間のトラブル、各ラボの面積が狭いetc)もあるので、研究組織の1つの形として、オープンラボシステムの理解が進むといいなと思っています。私自身、自分のスペースがないと苦手な性格ですが、オフィスは相部屋であるものの、他の人が気にならないくらいには区切られていますし、普通の研究室でコミュニケーション取れる程度のコミュニケーション能力があれば、問題なくやっていけるのだなと思いました。人に何かを聞いたりするハードルが低いので、私のようなタイプこそオープンラボが合っているのかもしれません。


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